ひかるの読書

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鈴木大介「脳が壊れた」

脳梗塞を発症して高次脳機能障害が残った筆者の、深刻なのに笑える感動の闘病記。

かつて取材したコミュニケーションが苦手な人、貧困や強いトラウマから挙動不審になってしまう人・・・

病気になって気づいたのは、彼らと筆者の現状が酷似していることだった。

高次脳機能障害者の多くはこの不自由感やつらさを言葉にすることもできず自分の中に封じ込めてただただ我慢しているのかもしれない。

それは高次脳と症状の出かたが酷似している発達障害精神疾患などの患者も同様だろう。

だとすれば、世の中にはいったいどれほどの数の、「言葉も出ずに苦しんでいる」人々がいるのだろう。


不自由なのに、わかってもらえない。

それを言葉にすることもできない。

自分に苛立ち、周囲の人に八つ当たりでもすれば、自己嫌悪につながる。

自分の症状を説明することは諦めて心を閉ざし、社会の中で孤立するのである。

何年も執拗に続いた夫のDVと離婚のショックからメンタルを深く病み、精神科から処方される抗鬱薬に依存するようになっていた彼女は、床に落ちた小銭を震える指先で一枚一枚集めながら、ぼたぼたと大粒の涙を床に落とした。

最後は小銭集めを諦め、レジにグシャグシャの五千円札を叩き付けるように置き、漫画のように鼻水をプランと垂らしながら釣り銭ももらわずに店を出た彼女に、なんとキレ易い人なのだろうと思った僕だったが、いま僕は痛いほどに彼女の気持ちがわかる。

(中略)

そして思うのだ。

彼女のそばに、今僕を支えてくれているリハビリ医療があれば、どれだけ強力な支援となっただろう。

孤独と混乱の中にある生活困窮者や貧困者には、この「認知のズレ」が共通して存在する。

ならば彼ら彼女らに必要なのは、いち早く生産の現場に戻そうとする就業支援ではなく、医療的ケアではないか。

それも精神科領域ではなく、僕の受けているようなリハビリテーション医療なのではないか。


世の中を生きているのは健常者だけではない。

見た目や言動だけで「異常者」のレッテルを貼ってはいけない。

それは非常に難しいことではある。

それでも彼らの「言葉にできない辛さ」を事前に理解し、救いの手を差し出せるようにしたい。

そんな内容の本です。



脳が壊れた (新潮新書)

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