金子千尋「どんな球を投げたら打たれないか」
オリックスを代表するピッチャー金子千尋
彼の投球術が書かれた本を見つけたので、さっそく読んでみました。
その主張は、「自分には才能がない。徹底的に考えることで才能を乗り越える」というものです。
一般的なエースピッチャーのイメージは、大谷翔平投手や藤川球児投手のように速いストレートを投げる、あるいはダルビッシュ有投手のように大きく曲がる変化球を何種類も投げれる、といったものでしょう。
しかし金子千尋の本質は、彼らと大きく異なります。
150㎏後半のストレートを投げられるわけではありません。
変化球が大きく曲がるわけでもありません。
しかし金子は三振の山を築き、不動のエースとしての地位を確立しているのです。
その秘密を知るために本書を読んでみたところ、常識とは大きく異なる金子の投球術を知ることができました。
思考はときに才能を超える。
その言葉の真髄をお伝えします。
金子千尋の生い立ち〜挫折の日々〜名投手への第一歩を踏み出すまで
小学4年生の時に長野市へ引っ越し。
少年野球が盛んな地域だったらしく、新しい友人と野球を始めました。
高校は長野商業に進学。
春のセンバツ甲子園に出場した経験もありますが、全国的にはまったく無名のまま高校時代を終えます。
卒業後はトヨタ自動車で野球を続け、その後オリックスに入団します。
しかし現実は厳しかった。
プロ1年目はケガの影響もあって一軍のマウンドにはあがれなかった金子千尋。
そうした結果よりも、「こんな凄いピッチャーがなぜ一軍で投げられないのか」という二軍で感じた不安と挫折感が金子を苦しめます。
一軍のマウンドで通用する武器がない。
なにをどうすれば、そんなボールを投げられるようになるのか。
その答えばかりか、ヒントやきっかけさえ、見つからなかったのです。
それでも腐らずに、必死になって他チームのエースクラスのピッチングをビデオで研究する日々。
金子はある発見をします。
フォークを投げた時の握りが、ボールを深く挟んでいないことに。
斉藤のフォークは、野茂英雄や大魔神佐々木のように大きく落下するわけではありません。
それでも、打者のバットは空を切ります。
なぜか。
金子は考え、答えを見つけます。
斉藤のフォークには落差がありません。
ストレートに近い回転と球速のまま、打者の手元まで来て少し落ちる程度です。
この当時はフォークという言葉しかありませんでしたが、今でいうスプリットを斉藤は投げていたのです。
そして金子も、指を深く挟まなくても落ちる球スプリットを発見し、名投手への第一歩を踏み出したのです。
変化しない変化球とは?
スプリットを習得する前の金子千尋は、「いかにボールを変化させるか」を意識して変化球を投げていました。
一方、斉藤和巳が投げるスプリットは変化が小さい。
それなのになぜ、打者は打てないのか。
ここでも金子は考えて、1つの答えを導き出します。
小さな変化だからこそ、打てないのではないかと。
変化球を投げるピッチャーは、ボールがきちんと変化しないと不安なのです。
しかし、ボールを投げるのは僕ですが、そのボールを打つのは18.44m先のバッターボックスにいる打者です。
打者から見て、一番打ちにくいのはどんな変化をするボールなのか。
ピッチャー目線を捨て、打者目線で変化球を考えるようになったとき、それまでとはまったく違う発想が芽生えました。
(中略)
僕ごときの打者が、プロの打者の目線に同じレベルで合わせることはできませんが、まず、打者としての自分が一番嫌なことはなにかを考えました。
その結果、大きな変化はいらないことに気づいたのです。
あくまで僕の場合ですが、打席に立って一番いやなのは、手元にきてわずかな変化をするボールです。
凄い変化球にまったく歯がたたずに空振りするよりも、ほんの少しのタイミングをずらされたりして打ち損じてしまう。
「どうして今のボールが打てなかったんだろう?」
そんな思いをひきずりながら、凡退することのほうが嫌なんです。
繰り返しますが、これはあくまで僕が打者なったときに感じる、僕の感覚です。
そこで考えた理想の変化球は、指先を離れたボールがストレートと同じ軌道で打者に向かっていって、打者がヒッティングの動作を始めたポイントで左右、あるいは下に変化していく、というものです。
まっすぐ伸びたボールが、途中でいろんな方向に枝分かれしていくようなイメージです。
(中略)
そして次の段階として、そうした意識を(スプリット以外の)ほかの変化球を投げるときにも当てはめるようになりました。
面白いもので、一つの思考はそれを実行することで、どんどん新しい発想につながっていきます。
つながるというより、浸透していくという表現のほうが僕の実感に近いでしょうか。
すべてのボールをいかに、変化するぎりぎりのところまでストレートに見せるか。
そういうボールを駆使できるようになれば、ストレートの軌道できても、打者は変化球を意識するようになります。
すると、ストレートも変化球と同じ効果を持つボールになります。
極論すれば、僕の場合は「変化しない変化球」を投げたいと思ったのです。
ストレートも変化球と考える。
この発想にたどり着ける人はどれくらいいるのでしょうか。
少なくとも僕はこの本を読むまで、そんなことは思いつきませんでした。
大きな変化球が投げられなくても大丈夫です。
ストレートと変化球を同じフォームで投げられるか。
ここに注意を払えば、バッターは常に2択3択を迫られるので、打たれる確率は大幅に減ります。
まあそうなってくると、同じフォームで投げるのが難しいという別の問題が発生しますがね(笑)
いつもと違う変化を歓迎する
金子千尋のすごいところは、これだけではありません。
多くのピッチャーは変化球を投げるとき、常に同じ変化をさせる傾向があります。
スライダーならこう、フォークならこのくらい落ちる、と。
それが少しでも狂うと「いつもの変化と違う」と思って不安になり、フォームが崩れ、失点につながります。
金子は正反対です。
自分の体調やグラウンドコンディション、気温や湿度、手首の角度など、微妙な違いは起こって当然と考えます。
同じ球種でも、その日によって変化が違うことを良しとするのです。
投げる側もどんな変化をするかわからないので怖い部分もありますが、打者から見ると、予想もしない変化をされると打ちづらいです。
すごいと思うのは、ここでも打者目線に立って考えるところです。
ホント徹底しています。
よくビジネス書には、「相手の立場で考えてみましょう」という言葉が書かれています。
金子はそれを体現していますね。
プロ野球の選手は自分の能力を高めることに重きを置いているものだと思っていました。
金子の場合、能力を高めること以上に相手のことを徹底的に考え、見つけ出した答えを実行しています。
この姿勢は真似しなければいけません。
ブルペンでは投げない
「思考はときに才能を超える」の主張、いかがだったでしょうか。
この記事は「どんな球を投げたら打たれないか」の第1章と第2章をまとめたものです。
第3章以降は、変化球一つ一つへの考察やノーヒットノーランを達成した時の思考プロセス、他選手の分析など、思考を武器にエースになった金子の考え方がわかります。
「野球選手ってこんなに考えてるのか。体を動かす人がここまで頭を使っているんだから、頭を使うことが仕事のサラリーマンは金子以上に思考しないといけないな」と思ったのが僕の感想です。
思考によって野球の常識とは違う答えを導き出し、それを実行して結果を出す。
ホント本書を読んでてそのプロセスにワクワクしっぱなしでした。
金子はブルペンで投球練習をしないんですからね。
普通じゃ考えられませんが、当然ある考えがあってそれを実行しているのです。
思考はときに才能を超える。
そして常識を破壊する。
金子千尋の投球論が詰まった1冊。
ぜひ下から本書を買って読んでみてください!
- 作者: 金子千尋
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2014/11/15
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