高城剛「カジノとIR。日本の未来を決めるのはどっちだっ!?」
カジノとIR、ふたつの道
IRの真髄は、税金を使わずに街のランドマークをつくることだ。
あくまでもカジノは、巨額投資をしてもらう企業への担保に過ぎない。
そして、そのカジノの顧客は、成熟した都市であるならば、自国民であってはならない。
これが、すべてである。
ラスベガスを賭場から家族向けのアトラクションの街へと変えたのが、スティーブ・ウィン。
一方でラスベガスをビジネス・コンベンションの街へと導き、IR(統合型リゾート)というコンセプトを展開したのが、ジェルドン・アデルソンです。
そもそもカジノ=IRだと僕は思っていましたが、IRというのは複合施設のことで、その中の1つにカジノがあるというイメージなんですね。
ジェルドン・アデルソンは、ラスベガスをビジネス・コンベンションが中心となる街へとつくり変えることを考えていた。
勢いがある産業に従事したり、勢いがある会社で働いているビジネスマンたちは、総じて金回りもそれなりで、会社からの経費も潤沢だ。
そのような「ニューリッチ」を「カジノ」とは関係なく集めることができれば、結果として「カジノ」も含め、街ごとすべてうまくいくだろうと、アデルソンはCOMDEXの大成功の経験から理解していた。
1988年、アデルソンらラスベガスの「サンズ・ホテル・アンド・カジノ」を買収し、翌年に「サンズ・ホテル」を開業。
さらに1年後となる1990年には大型見本市(コンベンション)を開催できる「サンズ・エキスポ&コンベンションセンター」を設立し、MICE(Meeting「会議・セミナー」、Incentive tour「報奨・研修旅行」、Convention「大会・学会・国際会議」、Exhibition「展示会、見本市」の頭文字をとった用語)施設によって集客する複合リゾートの実現に向かったのだ。
いわゆる観光コンベンションというのがIRのイメージで、カジノそのものが目的ではなく、仕事やイベントのついでにカジノへ来てもらうという発想なんですね。
この辺の詳しいことや海外の事例についてはぜひ本書を読んでもらいたいのですが、高城さんは今ある施設や街並みを有効活用することが必要だと述べています。
廃墟を最大限に生かしたアレンタウン・ベツレヘムのIR
注目すべきは、いまだかつてない斬新さだ。
一般にIRといえば、シンガポールのマリーナベイ・サンズのようなカジノを含んだ近代的な施設をイメージするだろう。
最新建築の高層ビル群とエンターテインメント施設が並び、そこには数億円から数十億円規模の莫大な投資がされている。
しかし、「サンズ・ベツレヘム」が陣取る跡地は、まったく違っていた。
本書扉の写真はその外観だが、窓ガラスが割れ、朽ちかかった工場跡を、まるで最近発掘された遺跡のように保存し、その一角にホテルとカジノを開業したのである。
この街の4分の1程度は工業地帯であり、サンズがやって来るまではすべて荒涼とした廃墟のままだった。
こうした巨大工場の廃墟を古代ギリシャの神殿のような歴史的遺産と捉え、廃墟の周辺に歩行者用ゾーンを設置し、完全に観光地化しているのだ。
端から端まで歩けば30分ほどの観光ゾーンの要所には、「鉄がどうやって作られていたか」などをガイドする看板も設けられ、スーベニアショップではかつてのベツレヘム・スティールによるノベルティ製品なども販売されていた。
まるでスチームパンクの世界観をそのまま現実化したような印象で、僕はそのセンスのすばらしさに圧倒された。
またこの街では、毎年夏に全米最大の無料野外音楽フェスも開催している。
1984年から、毎年8月の1週目にベツレヘムでミュージックフェストという音楽祭が行われてきていたが、現在では、3週間もの長期にわたって開催され、数多くの有名アーティストが出演している。
(中略)
ライブが終わればカジノに出かける人もいるが、僕の見た限りでは、ギャンブルに興じていたのはほとんど中国人観光客立った。
この街はニューヨークから車で1時間半の場所にあるが、実はチャイナタウンからの直行バスが一日に何便も出ている。
つまりは、こういうことだ。
ギャンブル好きの中国人からカジノで巻き上げたその金で、無料ライブを毎夜開催し、多くの人をここに集めて、地域は活性化に成功したのだ。
カジノという収益性の高い施設があるからこそ、他にはできない投資サイクルができる仕組みといえるだろう。
人は、賑わっている場所に行きたいものだ。
(中略)
日本にも廃墟となった工場地帯を抱えたままの地方都市は多くある。
だが、ベツレヘ厶はそうした負の遺産を逆手に取り、サンズの力を借りて地方創生に成功したのだ。
このアイデアとセンス、日本の地方都市でサンプリングできないだろうか?
2020年に開催される東京オリンピックに向け、国立競技場の建て替えが注目を集めたが、僕が思うに、人々を惹きつけるのは近代的な新しい建物ばかりではない。
日本では多数の施設においてスクラップ&ビルドが繰り返されて来たが、新しい建物の建設を求めているのは、一般の人々ではなく、利権に絡んだ人々なのだ。
そして、古き良き建物に流れる「かつての時間」は、一度建物を壊してしまえば、どんなにお金をかけても買い戻すことはできない。
日本でも2015年に長崎県の端島(軍艦島)が世界文化遺産に登録され、2009年以降は一般向けの観光ツアーも実施されている。
廃墟となった炭鉱の島を一目見たいという人々で人気を集めているのも事実だ。
スクラップ&ビルド至上主義の日本であっても、数千年前の遺跡だけではなく、わずか数十年前の建物でも、そこに価値を見出すことはもちろん可能なのである。
サンズ・ベツレヘムのこのやり方は、国家が取り組む大都市観光型IR施策としてら、いささか規模が小さい。
しかし、巨額の費用を投じずとも、カジノを生かす発想力があれば、どんな地方都市でも成功できることを教えている。
これこそが今後の地方創生に必要な「センス」であることは間違いないだろう。
要するにカジノだけ作って「ハイ地域活性化」なんて甘い話ではないってことです。
まずは地域の魅力をどのようにして発信していくのか、その新たな切り口が求められています。
IRは旧来社会システムを変える「ラストリゾート」だ!
IRの成功の鍵は、法案でもギャンブル依存症抑制でもなく、今までの日本式システムを破り、新しい型をつくることにある。
だからこそ、シンガポール同様に外資によるオペレーションが鍵を握ると僕は考えている。
もはや誰もが知るように、期待していた東京オリンピックによる特需は、旧態依然とした経済の仕組みの中へと吸い込まれていった。
ゼネコンや政治家を中心とする旧型社会に食われてしまったのだ。
国を挙げて巨額の費用を投じるラストリゾートとしてのIRは、オールドエコノミーからニューエコノミーに転換する本当のラストチャンスだ。
現在、IR構想に対し、パチンコ産業の大手やアミューズメント機器メーカーが食い込もうと必死になっているが、もしもこれを易々と許せば、旧来型のフレームに収まり、社会システムも経済のあり方もこれまでと変わらないまま続いていくだろう。
その上、IRそのものが失敗に終わる可能性が高く、せっかく誘致に成功した地方都市は再生できずに、国民は疲弊し、結果、日本経済は粛々と終息に向かうだろう。
だからこそ、シンガポールは外国資本を呼び込んだのではないだろうか。
これまでの社会のあり方とはまったく違う外からの力が入れば、客観性は担保され、旧型の構造やそこに棲みつく黒い利権は淘汰できる。
なにより、もし東京でIRを実現するのなら、「シンガポールのサンズの5倍はすごいものをつくらねば勝てない」と僕は考えている。
新しい国立競技場の失敗をくりかえしてはならず、いくらかかっても、これまで見たことのないようなIRをつくらなければならない。
それも人のお金で。
歴史を振り返っても、日本は黒船の来航などの外圧によって変化してきた国である。
長い歴史を持つ国だからこそ、多くのしがらみもあり、自らだけで変わるのはとても難しい。
もはやIRの成功は、カジノや観光収入だけの問題ではない。
それは、戦後長く続いてきた社会システムを刷新し、日本が再生するために、そして、この国家が長く生きらえていくために必要なことだろうと、多くの地を見てきて実感する。
残されたこの最後の楽園が、旧来型の人々の欲望に食い尽くされぬことを、僕は心底願ってやまない。
山本太郎さんが国会答弁で言ってましたよね。
「カジノ法案はセガサミーのためか!」
って(笑)
高城さんが危惧しているのが現実化しそうだなーというのが正直なところ。
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