ひかるの読書

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内田樹「街場の天皇論」

自民党憲法改正草案は新しい

内田樹「街場の天皇論」を読みましたが抜群に面白かったですね。天皇や安倍政権に関するエッセイ集ですが、その中でも印象的だったのは憲法について。

世界ではグローバル資本主義という「新しい」経済システムと国民国家という「古い」政治システムが利益相反をきたしています。その流れの中で、「よりグローバル資本主義に親和的な政治勢力」が財界、官僚、マスメディアに好感され、政治的実力を増大させています。

自民党の改正草案はこの時流に適応すべく起草されたもので、国民国家解体のシナリオが書き込まれていると内田さんは考察しています。

グローバル企業はボーダレスな活動体であり、国境を超えるごとに言語が変わり、通貨が変わり、度量衡が変わり、法律が変わる国民国家の存在はきわめて不快なバリアーでありません。

ビジネスで重要なのは機動性であり、マスコミは「機動性が高い」ことに過剰なプラス価値を付与しています。

世界各国を動き回って機動性の高い「強い個体」と、扶養家族を抱えて将来を憂う「弱い個体」の分離と対立が現在進行中です。

自民党改正草案は、国家システムを「基礎づける」とか「うち固める」のではなく、「機動化する」「不定形化する」ことでグローバル企業の利益追求に迅速に対応する国づくり(というよりも国こわし)を目指しています。こうした政治運動は史上初めてです。

基本的人権の制約強化は行政制度のスリム化や国家資源の節約につながり、浮いた利益はグローバル企業に行き渡ります。戦争参加も、国民国家解体の加速を意味します。

それにより少数の「機動性の高い個体」が、圧倒的多数の「機動性の低い個体」を支配する格差社会が出現するのです。

第9条のように、現行憲法国民国家の「理想」を掲げていたことを「非現実的」として退けた改正草案には、もう目指すべき理想がありません。誰かが作り出した状況に適応し続けること、現状を追認し続けること、自分からはいかなる形であれ世界標準を提示しないこと、つまり永遠に「後手に回る」ことを改正草案は謳っています。

歴史上、さまざまな憲法草案が起草されてきましたが、現実的であること(つまり、いかなる理想も持たないこと)を国是に掲げようとする案はこれが初めてではないでしょうか。



引用ここまで。
僕は憲法改正戦争賛成軍国主義化というイメージしか持っていませんでしたが、本質は大企業との結託が目的だったんですね。

TPPやFTAもこの流れに合致します。

日本の政治家は日本国民のことを考えていないというのはある時気づきましたが、この文章を読んでその考えが証明されたようでした。



死者を利用できない左翼

左翼知識人が政治的熱狂をかき立てることができないのは政策どうこうではなく、「死者を背負う」ことをしないからだという考察は超面白かったです。

極右の政治家は政治的エネルギーの源泉として死者を利用できることを知っているのです。

安倍首相は岸信介という死者を肩に担いで仕事をしています。

しかし安倍は「自分の血縁者だけを」死者として背負っています。これに対して、「すべての死者を」背負うスタンスなのが天皇です。

安倍はその点で天皇に勝てないことを知っているので、天皇の政治的影響力を無力化することに必死なのです。



街場の天皇論

街場の天皇論