スピッツ「旅の途中」
マサムネの歌は高いキーで、もっと張って歌ったほうが聴き手に届くよ
日本が誇るべき変態バンド、スピッツ。
J-POPの代表として祀り上げられてますが、歌詞の世界観は全くもって健全ではありませんw
それは置いておいて、スピッツが売れるキッカケになったのは、プリンセス・プリンセスやユニコーンなどを手がけたプロデューサー、笹路正徳さんとの出会いです。
この本の魅力は、笹路さんの素晴らしすぎる人柄がわかること、この一点に尽きますね。
笹路さんはバンド全体に厳しい言葉を与える一方で、メンバー個々に接し方を変えてアドバイスをしたり、相談に乗ったりしていました。
また、スピッツの曲を理論と実践の両方から説明し、4人が無意識に好き勝手にやってきたことをきちんと解剖して、分析していました。
例えば、
「新しいアルバム(『Crispy!』のこと)のデモテープを聴かせてもらったけど、メロディアスな曲をやろうとしているみたいだね。だったら、持続音が表現できる楽器があったほうがいい。キーボードやストリング、ホーン。とくにキーボードが必要だね。」
「頭一拍置いて、たとえばキーがCのとき "ミ" で始まる曲、三度で始まる曲が多いね。それをちょっと変えるだけで、曲の印象が変わるよ」
のように。
ボーカルのマサムネにとって、これらは新鮮で納得できることが多かったようです。
マサムネは他にもこんなアドバイスを受けています。
「マサムネはハイ・トーンにいったときの声がいいんだから、それを使わない手はないよ」
その言葉を聞いて、目からウロコが落ちた気分だった。
実のところ、俺(マサムネのことです)はハイ・トーンの自分の声が嫌いだった。
ハイ・トーンは出しやすいことは出しやすくて、スピッツを結成して一年くらいの、ブルーハーツっぽいビートパンクの曲を歌っていた頃には高い音を出して歌っていた。
けれど、ロックはクールにという、いま思えば誤解もいいところの思い込みがあって、その後はわざとキーを低く設定して歌っていた。
とくに笹路さんと出会う直前のアルバム『惑星のかけら』では、当時流行していたグランジ・ミュージックの影響があって、わざと声を低く、ウィスパーっぽく歌おうとしていた。
笹路さんはそんな俺の思い込みを壊してくれた。
「マサムネの歌は高いキーで、もっと張って歌ったほうが聴き手に届くよ」
俺はその頃もまだ、仕方なく歌っているボーカリストなんだ、という意識がどこかにあった。
自分の声が好きではなかったし、自分の声に惹かれて聴いてくれている人なんてほとんどいないとさえ考えていた。
スピッツが売れないのは、俺の声が嫌われてるからじゃないのか、と考えていたくらいだ。
俺は楽曲で勝負しているんだ。
ボーカルは二の次さ。
そう思おうとしていた。
だから、笹路さんに声について言われたときには、嬉しかったというよりもびっくりした方が大きい。
それまでも「声がいいよね」と言われたことはもちろんあるけれど、たいていのボーカリストがそう言われていると思っていた。
俺は褒め言葉を真に受けるほうではないし、人間が疑り深くできているから。
それでも、笹路さんの言うことなら信じてみようか、そう思わせる "笹路マジック" が俺の歌を変えていった。
マサムネの闇の部分が垣間見えますが(笑)、この本を読んでいる僕も笹路マジックの素晴らしさに感銘を受けてしまいます。
褒めるっていうのはいいことだなーって。
俺のアルペジオ
そんで極めつけは、ギターの三輪テツヤに対するアドバイスですね。
俺は自分のギターに自信をなくしていた。
高橋さん(事務所の社長)に「デビューの頃から上達していない」と言われたことが堪えていた。
ギタリストは世の中にたくさんいる。
でもギタリストって何だろう。
そんな疑問が心のどこかに常に引っかかっていた。
(中略)
そんなときに笹路さんが「リズム感がいいよ」と言ってくれた。
自分でもリズム感がいいとは思っていたから、「笹路さん、わかってるなあ。信じちゃおう」と思ったのだ。
俺は褒めたら伸びるタイプだったのかもしれない。
笹路さんはそこまで見抜いて、一流のプロデュース・ワークでそう言ったのかもしれないけど、俺には嬉しい言葉だった。
(中略)
笹路さんと俺は家が近かったので、よくレコーディングの行き帰りにクルマで送ってもらった。
そのときもいろいろな話をした。
笹路さんは俺と話すことで、スピッツというバンドを理解しようとしていたんだろう。
しかし、俺にとっては、笹路さんと話すことで、ギタリストとしての自分を作っていくきっかけを持てたと思っている。
俺がアルペジオに自信を持てるようになったのは、笹路さんと出会ってからだ。
それまでは、アルペジオが嫌いだった。
俺にはそれしかできなかったから。
アレンジでも、思い浮かぶのはアルペジオばかり。
マサムネの作ってくるコード進行にアルペジオを乗せる方法論がぜんぶ一緒で、そんな自分の手癖みたいなものが嫌だった。
でも、笹路さんは俺のアルペジオを個性として認めてくれた。
「普通はみんなアルペジオは嫌がるぞ。テッチャンはアルペジオが本当に好きなんだな。アルペジオの歩いていくような運指ができるギタリストはそんなにいないよ。それがテッチャンの個性なんじゃないか」
笹路さんは俺に、スピッツというバンドのギタリストであることに誇りを持たせてくれた。
そしてさらに、アルペジオの音の粒立ちを揃えたほうがいいといった、アドバイスもしてくれた。
「テッチャンの方法論を別のバンドに使ってみようとしたけれど合わなかった。マサムネのコード進行だから上手くいくんじゃないかな」
その言葉を聞いたとき、スピッツというバンドの中に自分の居場所を見つけた気がした。
バンドのギタリストとして成長したい。
本気でそう思うようになった。
笹路さんの言葉がイケメンすぎるんですけど……
笹路さんとの出会いを通じて、スピッツは「空も飛べるはず」「ロビンソン」「チェリー」など数々の大ヒットを飛ばしていくのです。
褒めるっていうのはこういうことかというのがわかる1冊です。
- 作者: スピッツ
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/11/30
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