上坂徹「成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?」
ストーリーが理解されたとき、商品は支持を得ていく。
社長である原昭彦さんの言葉。
「成城石井の商品は値段が高い、といわれることがあります。
たしかに単純に比較すれば、他のスーパーより高いものもあります。
ただ、ストーリーをきちんとお伝えして、そこまでこだわっている生産者がいて、その気持ちを理解してこだわって売ろうとする私たちがいて、それでも本当に高いでしょうか、ということは問うてみたいんです。
成城石井のお客様は、それをよくご理解くださっているのだと思っています。
そして、こういうプロセスを、一つひとつ積み上げて商品が増えていって、今の成城石井があるんです。(中略)」
「本当においしいものを提供する。
それが一番大事なことだと思っています。
これは私自身もそうなんですが、おいしいものを食べちゃうと、もう戻れないんですよ(笑)。
成城石井のこだわりを理解してくださる方が増えたというのは、それだけおいしいものを求める方が増えたということだと思っています。」
産地まで行き、本当においしいものを探してきた。
それを本気でやる会社なのだ。
それが支持を生んでいる。
そして、そんな成城石井を作り出したのは、実は顧客だった。
顧客が求めるものを追求してきたら、今の成城石井になったというのである。
「話をしに来るだけでもいい」スーパー
成城石井が目指しているのは、会話ができるスーパー、だという。
「これはスーパーに限りませんが、経費削減の名のもとに、従業員を減らしている商業施設も少なくありません。
それでは、"お客様と会話なんてしてもしょうがない、手間がかかるだけだ" という考えだと思われても仕方がないと思います。
成城石井は違います。
店内には従業員が大勢います。
お客様と、どんどん会話をさせていただきたいんです」
会話をすれば、求められているものが見えてくる。
"今日はこんなものが入ってますよ" というコミュニケーションもできる。
"先日お買い上げになった商品はいかがでしたか?" という問いかけもできる。
袋詰めの技術
卵は横の力には弱いが、縦の力にはかなりの強度を発揮するため、袋の下に詰めるのが正解。
むしろ卵を上に置き、袋が横に倒れてしまったときの方が、割れる可能性は高い。
牛乳を縦に入れるのは、持つときの袋のバランスを崩すから良くない。
横にするといっても表ラベルを上にすると、牛乳パックを閉じている上部の三角の部分が横になっていまい、パックの強度が脆くなる。
ラベルの側面を上にすると、パックを閉じている三角の部分を縦にできるため、強度を保ったまま袋の底の土台を作れる。
1日2500個のジャガイモが手むきされている
人気惣菜のポテトサラダ。
そのジャガイモは、手で皮をむく。
「ジャガイモは、皮の真下が一番おいしいんですよ。
機械を使うと、そこまで削ってしまうことになります。
これでは、味がまるで変わります」
ポテトサラダは人気の定番商品。
なんと一日五〇〇から六〇〇キロ、二五〇〇個ほどのジャガイモが手むきされているという。
「みんなで並んで手で皮をむきます。
このポテトサラダのレシピも、もともと一流ホテル出身のシェフが作ったものでした」
(中略)
ここまで手が込んだ商品。
そのストーリーがわかれば、高い支持も納得である。
成城石井にとっての大きな転機、エキナカ出店
エキナカへの誘いのきっかけは、東京・成瀬にできた小さな路面店舗だった。
当時は、商品部の原氏が、品揃えの一部を担当した。
商品の選択も陳列も、すべて。
だが、エキナカはまったく初めて。
しかも、四六坪という過去にない小さな店舗。
どんな風に店を作るのか、頭を悩ませたらしい。
「アイスクリームのショーケース以外にも、たくさん失敗はありました。
米や醤油はまったく売れませんでした。
後から考えればわかることだったんです。
わざわざ駅のスーパーで醤油や米は買わない。
それは、自宅近くの最寄りのスーパーでいいわけです。
一方でうまくいったのが、チーズの売り場をなんとか作ろうと、棚の下から上まで一〇〇種類以上のチーズを山と積んだことでした。
売り場が狭かったので苦肉の策だったんですが、これが飛ぶように売れました。」
(中略)
「本当にびっくりしました。
わかったのは、周辺で働いている食への感度の高いお客様が、仕事帰りに買ってくださっていることです。
コーヒー、紅茶、ワイン、チーズ、惣菜は大変な売れ行きでした。
自宅最寄りのスーパーには売っていないものを買っていかれたんですね。」
一ヶ月かけて、店の品揃えを大きく変えた。
米をなくし、味噌や醤油、卵や豆腐を減らした。
パンや惣菜、ワインを拡張する。
売上はさらに伸びた。
月間の売上は、事前予想の二倍を超えた。
「自分の考え方が大きく変わりました。
路面店のスーパーマーケットとは、売れるものがまったく違ったんです。
その一方で、それまで成城店をはじめとして、お客様のニーズに応えようと一生に取り組んできたワインやシャンパン、チーズ、惣菜といった成城石井独自の品揃えが大きく活きたんです。」
その後、エキナカ出店は続々と行われていく。
「商圏一キロ圏内で所得いくら以上の人が何人いる、なんて表面的な調査は意味がないんだとわかりました。
むしろ、日中の昼間人口がどのくらいいるか、が重要になる。
路面店では逆です。
昼間人口は関係ない。
その地に働きに来る人をイメージして品揃えをしたりしないからです。」
そして、エキナカに出たことで、"こんな店があるんだ" ということを知ってもらうことができたという。
「近所のスーパーにはうっていないワインやチーズが手軽に買える。
これは、友達や家族との大事な日に、いいものを飲みたい、と思ったときに使えるな、と気づいてもらえた。
みなさん、潜在的に求めておられたんです、こんな店を」
「顧客はこう」と勝手に決めない
「成城石井はいわゆるターゲットゾーンを明確に設定していないんです。
年齢でも性別でもお客様をセグメントしません。
おいしいものを食べたい人は、男性でも女性でも、年齢がいくつになっても関係ないですよね。
また、年収が三〇〇万円でも五〇〇万円でも一〇〇〇万円でも、おいしいものを食べたい人は、その気持ちは同じです。
それにお応えし、商品をお届けするというのが、成城石井の考え方なんです。」
(中略)
セオリーを逸脱したやり方かもしれない。
だが、道理にはかなっている。
年収三〇〇万円の人は、高額シャンパンは買わないのかといえば、まったくそんなことはないのだ。
実際、自分へのご褒美に、と若い女性が週末に高価なシャンパンやワイン、チーズや生ハムを買っていくことは珍しくないという。
もし、年収で区切ってしまったとしたら、こうしたニーズは見えてこない。
原氏は言う。
「消費とは、感情で行われると思っているんです。
エモーショナルな行動であって、ロジックではない。
だから大事なことは、感情にどれだけアピールできるかです。
こんな商品があるんだ、という感動や感激、こんな丁寧に接客してもらえたんだ、という喜び。
そういうものこそ、成城石井ら大事にしてきたんだと私は思っています。」
他にもいい言葉がいっぱい詰まってますので、ぜひ読んでみてください。
めっちゃいい本でした。
- 作者: 上阪徹,織田桂子
- 出版社/メーカー: あさ出版
- 発売日: 2014/06/24
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