青木真也「空気を読んではいけない」
夢を軽々しく口にするのは詐欺と同じである
はっきり言えば、夢や目標をたっせしようとするのならば、地道に努力を続けるしかない。
その上で、運や素質といった自分の努力以外の部分にも翻弄されながら、大半の人が夢破れている。
夢なんて叶わないものだと思っているからこそ、僕は自分のキャリアを現実的に積み上げてきた。
ファイターが生涯戦える試合を40戦とするならば、1試合が40年間働くサラリーマンの1年分に当たる。
大卒の生涯賃金と言われる3億円を、選手生活だけで稼ぐと考えるのであれば、大雑把な計算で1試合のファイトマネーを800万円に設定する必要がある。
そう考えれば、1試合とて無駄にすることはできない。
僕は引退を35歳と設定し、そこから逆算し、年間いくら稼がないといけないか考え、常にファイトマネーの交渉に臨んできた。
(中略)
強敵に勝利すれば自分の価値は上がる。
だが、毎試合、格上の選手とギリギリの勝負をするわけにはいかない。
常にリスクを冒していては単なるバカだ。
いかにして自分の市場価値を守り、上げていくかを考えると、普段は冒険せず、相性のいい相手、7割方勝てそうな選手を選ぶことが大事になってくる。
その中で、5試合に1度くらい、"勝負どころ"を見極めて、格上選手と対戦する博打を打つ。
(中略)
こんな計算ずくの僕の生き方を「夢がない」と言うのは結構だが、多くの夢を語る選手が僕よりも安く、弱いのはなぜだろう。
悔しかったら、僕を超えてみてほしい。
闇雲に夢に向かっていくのは勝手だが、見当違いの努力をしていたら、いくら頑張っても意味をなさない。
どこまで守り、どこで攻めるのか。
自分の市場価値をいかに高めていくのか。
そういったことを、自分自身を客観視しながら考えていかないといけない。
負けを転がす
今までの試合のベストを挙げるならば、長島☆自演乙☆雄一郎選手との戦いになる。
(中略)
作戦通り1ラウンドを無傷で乗り切り、迎えた2ラウンド。
当然、僕が簡単に主導権を握るはずだった。
しかし、開始直後、寝技に持ち込もうとタックルを仕掛けた瞬間、カウンターで相手の膝蹴りをまともに食らってしまった。
結果は失神KO負け。
漫画のような展開に、会場は大爆笑。
多くの観客が「青木ざまあ見ろ!」と思っていただろう。
正直に言うと、負けた後の1年くらいは苦しかった。
文字通り「地獄」に落とされたような気分にもなり、試合を見返すことはできなかった。
自分の中でこの負けを消化するまでに、かなりの時間がかかった。
ただ、時間が経ったことで、試合に対する自分の考え方にも変化が出てきた。
あの試合は、僕が日本中の恥さらしになった一方で、格闘技を普段見ない人の間でも話題になり、良くも悪くも僕の知名度を上げてくれた。
世間の人が「あの青木真也」と言うときの「あの」は、この敗戦を指している。
どんなものであれ、「あの」を持っていることは選手としての僕の価値になっている。
今では、あれが僕の「代表作」であり「財産」だと言うことができる。
勝負事はどれだけ勝ちに徹しようと、負けるときがあるものだ。
偉そうなことを言って負けたときは、世間から叩かれたり、バカにされる。
それは、正直言って苦しい。
しかし、大事なのは「負けを勝ちにする」ということだ。
派手な負けは「こんなにおいしいことはない」と捉えることもできる。
負けを転がして自分の代名詞にしないともったいない。
もちろん、試合前から負けた後のことを考えているようでは、転がるものも転がらない。
勝利を渇望して、全身全霊をかけて取り組んだのであれば、その結果がどうであれ、いずれ何かしらの形で報われるはずだ。
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