ひかるの読書

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「THE GROOVY 90'S 90年代日本のロック/ポップ名盤ガイド」

この本はミュージック・マガジンが出版した本で、90年代邦楽の名盤を紹介しています。

SMAPKinKi Kids、SPEEDやモーニング娘。など、マニアックなものだけでなくJ-POPの名盤も取り上げているので重宝しています。

その中から、僕が好きなアルバムの解説文をいくつか引用したいと思います。


青春と変態が同居した世界。岡村靖幸「家庭教師」

サウンド的にはポップだが、ファンク色がさらに強まり、すさまじい音数の多さ、そしてそれらの打ち込みも演奏もほぼすべてが彼の手によるというのは、にわかには信じられなかった。

さらに歌詞は、

《部活(バスケ)》
《倫社と現国》

といった青春タームと、

《撫でちゃいたいかい? 僕の高層ビルディング》

だの

《ねえ職場のとなりの席がバカなセクハラ上司で君を撫でたら殴るの?》

だの、エロくてぶっ飛んだ名(迷?)フレーズの連発。

青春と変態が同居した世界は、まさにカテゴライズ不能。

岡村ちゃんというひとつのジャンルである。

(中略)

ちなみにライブも彼の独壇場だった。

「家庭教師」のセリフ部分での一人芝居が爆笑もので、うまいのかどうなのか分からぬほどに自由なダンスといい、即興での弾き語りコーナーといい、まさに彼のピークというべきかっこよさだった。

(中略)

思えばこの頃のアルバムもライブもあまりに完璧でありすぎたがために、その幻影を追い求めて、岡村ちゃんも彼のファンも苦しむこととなる。

皮肉な話だが本作はそれくらい傑作ということだ。


青春と変態が同居した世界www
まさに仰るとおりです。

タイトル曲でもある「家庭教師」のライブ映像はめちゃくちゃ面白いのでぜひ見てください。

要するに家庭教師が教え子とエッチな雰囲気になるという歌詞なんですが、それを表現する岡村ちゃんダンスがエロ過ぎて爆笑します(笑)

家庭教師

家庭教師


魔法のような時間。フィッシュマンズ「空中キャンプ」

彼らのルーツであるダブ/レゲエを昇華したポップ・ソング集であることは間違いない。

けれどそれを生み出していたのは、果てない実験精神と、本能的な欲求だった。

ゆったりとたゆたうリズム、うねるベース・ライン、浮遊するメロディ。

ある人は覚醒を感じるかもしれないし、また別の人は恍惚を感じるかもしれない。

どちらにしろ、アルバムはまるで魔法のような時間が流れていた。

(中略)

目の前から隠れがちな感覚をハッとするような言葉で拾い上げる歌詞の鮮烈さも見逃せない。

《意味なんかない 意味なんかない 今にも僕は泣きそうだよ》(「BABY BLUE」)。

物事に簡単な答えを出そうとはせず、漠然としたムードの中でセンチメンタリズムや幸福感や、その時々の気分を噛み締めるような言葉。

それが心に突き刺さる強度を生み出していた。


このアルバムは落ち込んだ時に聴くとものすごく癒されます。

魔法という言葉がピッタリの、奇跡の1枚です。

空中キャンプ

空中キャンプ


無駄遣いと思考と遊びの90年代

最後に、スチャダラパーTOKYO No.1 SOUL SETの対談を引用して終わりたいと思います。

90年代の空気というものが伝わってきます。

-最後に"自分たちにとっての90年代とは何だったか?"を。

BIKKE 「ちょっとCDとか売れたものだから、よくわからなかったですよね。いまだったら考えられないぐらい、無駄遣いをいっぱいしてましたし。で、ずっと右肩上がりなのかと思っていた」

川辺 「俺はこのままいくわけないって思っていたけどね。どこかで終わるんだろう、こんな楽なわけないな…って」

BOSE 「でも、レコードでもゲームでも漫画でも欲しいモノはどんどん買えて、2000年代に入るまではずっとそんな感じ。で、はたと気づいたら"コレいらねーかも"って。まだまだ集めるだけの時代だったね、90年代」

渡辺 「俺も欲の塊だったね。無駄なものを山ほど買ってましたよ。でも、いまはどんどん削ぎ落としている最中。もう何もいらない…って感じになってきている」

-それがようやくわかってきた?

渡辺 「いや、わかって消費していたところもあるんですよ。自分のためよりも人が喜ぶからやっていたところもあるし。いまは自分のためだけにしかやらない」

SHINCO 「遊んでばかりいたけれど、物事もちゃんと考えてなかった? この頃、一番本を読んでいたと思うし。おかしな時代だった」

ANI 「まあ、成長していたんだと思うよ。いろいろな意味で。若かったし、全力で…」

BOSE 「特にANIは、みんながうらやましがるような楽しい感じだったよね。朝までゲームやっても誰にも怒られないし、好きなレコードばんばん買って。羽振りもいいし」

ANI 「遊ぶのが仕事だったから(笑)」

BOSE 「ガチャガチャとか、昼間から袋パンパンに持って歩いてて」

渡辺 「完全に不審者でしょ(笑)」

BOSE 「ガチャガチャを開けるのが仕事。ある意味、子供の夢だよね」


小山田圭吾(コーネリアス)のアルバムにもこの雰囲気が現れています。

90年代の「ファンタスマ」というアルバムは、「おもちゃ箱」と比喩されることもある通り、きらびやかで楽しげな、色々な音が詰まったアルバムです。

しかし2000年代の作品になると一転、音の数が最小限になり、緊張感が支配するアルバムになっています。

90年代を生きる若者っていうのは、モノが溢れていて幸せだったんだと思います。

しかしその裏には危機感や寂しさ、孤独があった。

川辺ヒロシは、「こんな時代がいつまでも続くわけない」と上の対談で述べてますし、上記のフィッシュマンズ「空中キャンプ」では、そんな時代を生きる寂しさや孤独が表現されています。

90年代の光と影。

みなさんもこの名盤ガイドを読んで、それを辿ってみてはいかがでしょうか。